noise pop

生活

若者は悩むのが仕事

凄いものや美しいものを見ると、泣いたり感動するを通り越して笑ってしまう。


久しぶりにライブを見に行った。「ANNIK HONORE」というバンドだ。最近はめっきりライブを見に行くことも減って、ライブハウスにライブを見に行くのは2ヶ月ぶりだった。サークルの後輩である佐藤君がボーカルを務めている。佐藤君と最初に会ったのは1年半前、サークルでサイゼリアに集まった時だった。その時からちょこちょこ仲良くなって、僕みたいなお世辞にもちゃんとしてるとは言えない人間を(多分)慕ってくれる貴重な存在だった。


そして結構な頻度で、仙台から決して近くはない僕の家(または佐藤君の家)に集まって、夜な夜な音楽の話からしょうもない話まで色々なことを話した。その中で彼は「バンドをやりたい」ということを相談してきた。頼りない先輩の僕は全く的を得ていないアドバイスを送り佐藤君を困惑させていた。


数ヵ月後。「バンドを組んだ」という話を本人から聞いた。そのバンドを結成した日、そして結成のきっかけとなったのはマカナでのプリマドンナ(僕が以前やっていたバンド)のライブだったという。その日のライブというのは曲の最後にすっ転んだ僕のケツに、当時サポートギターだったヒラマケンタがギターのヘッドを突っ込むという惨事が起こったのだった(僕は痔持ちなのだ)。
「あれを見てバンド結成か…」と僕は自分のケツを摩りながら思った。あれからしばらく経ったけど、僕の痔の具合はあまり良くなっていない。


初ライブの日。僕はどうしても外せない用事があって、彼らのライブが終わってからせめて顔だけでも見たいと思いライブハウスまで行った。ライブハウスの前で会った彼らの顔からは、初ライブを終えた安堵感や、まだまだ色々できたはずという向上心が感じ取られて「いいなあ、若いなあ、青春だなあ」と年甲斐もないことを思っていた。ライブは見れなかったけど、ライブを見たヒラマから「すごい良かったよ」ということは聞いていて、早くこの目でこの耳で確認したいという思いに駆られた。気がつけば年を越していた。


そして今日である。前置きがめちゃくちゃ長くなったが。
1曲目「BUZZ」でゆらりゆらりと冬の曇り空のような立ち上がりで幕を開ける。バンド名の由来となったJoy Divisionの雰囲気さえ漂わせるような淡々とした、それでいて鋭い刃物のような輪郭をしたサウンド。そして2曲目から一気に畳み掛ける展開に。どこまでも続く靄のような轟音ギターの中に、ベルセバもヴァセリンズもペインズ・オブ・ビーンイング・ピュア・アット・ハートにも負けないくらい心地いい泣きのメロディーが鳴り響いていた。演奏は激しさを増していくが、メンバーの表情は怖いくらい淡々としている。そこがまたかっこよかった。アンプでギターをハウらせる佐藤君は、もう「バンドやりたいんです」と相談してきた佐藤君ではなかった。僕なんかが知らないような別の世界に足を確実に踏み入れていた。


そして最後の「to the loveless」である。思い出はこの曲を最初に僕の部屋で聞かせてもらったときまで遡る。聴く前は「リアクションに困ったらどうしようかな」と思っていたが、そんな心配は杞憂に終わる。Deerhunterを彷彿とさせるような、サイケデリックでガレージ、そして重いグランジの雰囲気が漂う音楽だった。海外のインディーシーンとリンクしているかのような、洗練されていて、なにより「見えない何かに対する怒り」が感じ取れて僕は非常に興奮した。格好良い、格好良すぎる。最初の心配とは逆にどんな反応をすれば良いのか分からなかった。単純に「格好良い」という単語だけで感想を終わらせたくなかったのだ。


どこまでも延々と続くノイズ、叫び、怒り。やっとそれが終わるとメンバーは楽器を放ってすたこらさっさと帰ってしまった。ギターの一樹君の「ありがとうございましたぁ」という間延びした声でライブは終わった。ライブが終わったあとのステージにはヒリヒリとした、しかしどこか綺麗さっぱりとした焦燥感だけが残った。


ライブが終わってタバコを吸いながら感想を必死に考えた。だけどすぐに言葉が見つからない。「すごく良かった」という言葉しか見つからない。自分のボキャブラリーの無さを恨んだ。「あのギターがどうこうで」という専門的な感想は僕には言えない。だけどあれはすぐに細かい感想が出るようなライブじゃなかった。もうとにかく良かったのだ。佐藤君だけでなく、一樹くんのギターの音色も、ベースの俊也くんのセンスも、ドラムの拳志郎くんのスネアの音も。感動というのはいつだって直感的なもんだ。「あそこがどうこうだから格好良かったよ」なんて感動でもなんでもない。そう自分を正当化することにした。そうじゃなきゃやってられない。今だってあの時の僅かな記憶と感情で文章を綴っている。仙台の、しかも自分の知り合いのバンドで感動するのはおそらく初めての経験だった。ちょっと困惑したのだ。


ちょっと褒めすぎなような気もする。確かに粗かったなあとか細かいところを言ってしまうのは簡単だ。だけどそれを言うのは僕の役目じゃないよなあと思う。そういうのは楽器をかじってる人やライブハウスの人が言えばいい話だ。僕はその粗さとか青臭さも全部含めて「格好良かった」という感想を言いたい。


数ヶ月前、僕がケツにギターを突っ込まれていた場所で、佐藤君が痙攣しながら見えない何かと闘いながらギターをかき鳴らしていた。その光景を前で見ていて、あの時佐藤君と知り合って、そして僕ん家でお酒飲んで笑ってどうしようもないことを言っているような関係になれて良かったなあと思った。少し泣きそうに、いや笑いそうになった。というか笑った。