noise pop

生活

ものすごくめんどくさくて、ありえないほどウザイ

昔、テストの採点をするバイトをしていたことがある。夢多き高校生の模試の答案に丸やペケをつけるのが僕なわけだ。もはや新手のギャグである。1点でも点数を上げるのに必死なタカシ君(仮名)やトモコちゃん(仮名)だってたまったもんじゃないだろう。そのバイト自体は死ぬほど楽な代わり、死ぬほど眠かった。そして周りには死ぬほどコミュニケーションを取るのが下手そうな人間が300人くらいいたので、バイト中はもちろん、休憩時間にも部屋中に静寂が響き渡っていた。僕は透明人間に変身していた。

そんな休憩中。後ろの席で二人の男子が音楽の話をしていた。男子Aは所謂ロッキンオンフェス大好き男子で、今度Polysics日本武道館公演に行くんだということを話していた。かたや男子Bはロバート・ジョンソンマディ・ウォーターズ、サニーボーイが好きという根っからのブルース系男子だった。水と油、ロッキンオンとブルースマン、2000年代邦楽と60年代ブルース。話が合うわけがない。この異種格闘技戦を面白そうだと思った僕はそのいびつな会話を一語一句聞き逃すまいと、耳をダンボのように大きくして聞いていた。

第三者が聞いていても恥ずかしさから逃げ出したいような会話の応酬が続き、男子Bが最終手段「昔のアーティストなら何聴くの?」を投入してきた。男子Bはこの戦いを終わらせにかかってきた。こっちだってこんな中身もない会話を聞かされるのはもう嫌だ。見てみろよ、夏なのに鳥肌が止まんないぜ。


男子A「…ああ、うん。ハイスタとか…?」


会話はそこで終わった。いたたまれなくなった僕は静かに席を立ち、窓の外を眺めた。若々しい新緑がそよぎ、僕は8月の風になった。

というか「最近どんなの聴くの?」と聞かれると言葉につまる。なんだかムズムズしてしまうのだ。それは「こんなの聴いてる俺格好良い」と思われそうで嫌だという自意識過剰な面もあるし、相手に「なにそれ知らん」と言われて会話を終了させられたあとの事後処理のめんどくささもある。僕は長年の修行で、こういう場合は「スピッツ」と言っておくと大体スムーズに会話が進むということを発見した。「ミスチル」じゃあダメだ。「スピッツ」なのだ。「草野マサムネってド変態だよね」と言っておけばなお良し。

あとは相手がめちゃくちゃ音楽に精通していて「なに聴くの?」と言われるパターンだ。こういう場合は「いやあ、最近は新しいのあんまり聴けてなくてですね。何かおススメありませんか、えへへ」と返してしまおう。質問を逆に質問で返すという、ある種反則ともとれる行為だけど、そんなこと知ったこっちゃない。「素直で可愛いなあいつ」という評価が得られるかもしれない

まあこんなめんどくさいこと考えてると頭が馬鹿になる。こんなこと言ってると「あいつめんどくせえな」と周りから一歩引かれるのも時間の問題になってくるだろう。だけど昔から機材の話には興味が無かったけど、音楽の話には興味があった。自分の知らない世界を知っている人が羨ましかったのだ。それを知ることによって俺もなにか変わるかもしれない、と思い必死になって色々調べまくった。あれから数年経ったけど特に変化は見られない。みんながみんな「何そのバンド、教えてよ」とならないことを僕はつい最近知った。

てか「最近何聴いてるの?」ってなんだよ。そんな恥ずかしいことよく聞けるな。お前はお前が好きなもん聴いてろ!それが一番なんだ!