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生活

気づいたら俺はなんとなく入院してた

正月に実家に帰ったとき、親から「暇なら歯医者行ってこいよ」と言われ、素直な僕はその言葉の通り近所のそこそこ評判な歯医者に赴き、サブカル女子っぽい歯科助士さんに歯石をガリガリ削られ、口の中がすっきりしたと思ったのも束の間、歯医者さんから「親知らずが邪魔で治療できねえわ。抜いてきてよ。紹介状出すから」と言われ、やっぱり素直な僕は近所にある総合病院へ行き検査してもらったら「完全に埋没してます。抜きましょう。ついでに入院しちゃう?」とか言われて、素直な僕はあれよあれよと言う間に入院する手筈を整え、着替えのジャージ(下だけ)を持って総合病院へ向かった。というのが前回までのあらすじ。

看護師さんに連れられて4階に昇る。このフロアで一泊しなければならない。廊下を歩くとそこには人生の終着駅のような光景が広がっていた。もはや帰りたいという気持ちしかない。スタバに行ってキャラメルフラペチーノ飲みたい。大体歯医者に行ったのだって冷たいもの(例えばキャラメルフラペチーノとか)を飲むと若干前歯が染みるなあ、と思ったからなのだ。親知らず関係なくね?何で俺は今こんな薄気味悪い廊下を歩いているのだろう。終着駅はすぐそこにあった。

部屋は大部屋。しかし僕しかいない。つまりこのだだっ広い部屋で一人で夜を過ごさなければいけない。もう「あー実は親知らず痛いってのは嘘なんですよ、真っ赤な嘘。ちょっと気の早いエイプリールフールなんすよ。あっしが全部悪いんで帰っていいですかねー、ん?」と言いたかったけど、「あらそうなの!あたしとしたことがまんまと騙されちゃったわねこの野郎!」なんて通じそうにもない感じの看護師さんだから止めた。6つあるベッドのうち1つに腰を下ろして時計を見る。11時過ぎ。星野源のエッセイを読みながら「そういえば昔の星野源ってジャガイモみてえな面だよな」と思いながら点滴を3本くらい打たれる。この点滴液が全部終わったのに気づかなかったらどうなるんだろう。血管の中に空気が入って死ぬんじゃないかと不安になる。死ぬのは怖い。

14時。点滴をゴロゴロと引きずりながら1階へ移動する。その後ろ姿は死刑囚だ。グリーンマイルが見たくなってきた。帰りたい。一応今回は静脈麻酔的なことをするから眠ってる間に終わっちゃいますよー、と担当の歯医者さんに言われてた。そんな毛利小五郎じゃあるまいし、いちいち麻酔で眠くなるのか。そんな単純な人間じゃないぜ。「そういえばミヤザキさんってミッキーマウスと誕生日同じなんですねー」と言われながらまずは局所麻酔を4回くらい打たれる。痛い。ミッキーマウスなら夢の国へ帰るくらいの痛さだ。

そこから意識が飛んだ。

ハッとしたら2本目の親知らずをグイグイ抜かれてるところだった。あ、これヤバい、死ぬ。気づいたら足をちょっとだけバタバタさせて「やばい。麻酔切れたよ、おい」というジェスチャーを必死に行っていた。それに気づいた歯医者さんは「もうちょっとだから頑張りましょうねー」と言ってグイグイ抜いていた。「いや、世の中には頑張っても無理なことがあるんだって。今がまさにそれだよ。ねえちょっと」と思っていたらスポっと抜けた。「よく頑張りましたね」と安っぽいAVみたいなことを言われた。時計を見たら15時ジャスト。つまり45分間記憶がなかったことになる。涙がスーっと頬を伝った。

ボーッとしながら車椅子に乗せられ人生の終着駅に向かった。ベッドで寝ていたら何人か看護師さんが来て何か話してたような気がするけど、全くここら辺の記憶がない。机の上にはさっき抜いた親知らずが2本置かれていた。

触ってみると硬い。歯なんだから当たり前だ。だけどこの硬い歯を4分割して抜くって、一体俺が寝ている間に何が起こったんだ。なんとなくツイッター見てたら「麻酔効かない。眠くらなない。地獄。」というクソみたいなツイートをしていたことに気づく。こんなこと書いた記憶がほとんどない。ただでさえ無茶苦茶な日本語がさらにキマってしまったようにぐちゃぐちゃだ。

意識がはっきりしてきてBeckの「Stary Blues-B Side Collection-」を聴いた。明日はBeckの新譜の発売日だった。「これを聴いて良かったら買おう」と思ったが、初期のB面集なので全くと言っていいほど参考にはならない。途中でTheピーズの「リハビリ中断」にする。高校時代に崇拝していたバンドであるが、久しぶりに聴いてもこの今にも死んで消えてしまいそうな音と歌詞が素晴らしい。だけど入院中に聴く音楽ではないことに気づく。夜になり、広い病室で一人色々なことを考える。なんだか無性に悲しくなった。入院する前に元メンバーのオトコザワさんからメールでライブに誘われたことを思い出す。ライブか、いいな。今頃みんなワイワイお酒でも飲んでヒッピーみてえなことしてんだろうな。かたや俺はこんな淋しい病室で一人、ピーズの歌詞に打ちひしがれているのだった。痛みが襲ってきたのでナースコール押して、ハローバイバイの関に似た看護師さんから痛み止めをもらって、なんだかんだ今後のことが不安だったけどすぐに寝た。

朝になり点滴と検査を受け、僕は退院することになった。来週糸抜きで来なければいけないが。舌で親知らずがあった場所をなぞると糸の感触がある。歯茎を削ってそこから親知らずを抜き糸を通して縫った。ただそれだけのことなのだけど、「歯茎を削る」「歯茎を縫う」という日本語が分からない。単純に怖い。歯茎を削って縫うって。全くピンと来ない。なんというか遥か彼方の大気圏外の言葉のように聞こえる。まあ日本語って面白いよね、と思うことにした。帰りにコンビニの喫煙所でタバコを2本吸ってレコード屋でHusker DuとLou BarlowのCDを買って帰った。クラクラした。