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生活

青春ど真ん中!

その男、凶暴につき」を初めて見たとき、殺し屋・清弘役の白竜を見た僕は「こいつ、Tさんに似てる!」と思った。

Tさんというのは僕が大学1年生から2年生にかけてバイトしていたスーパーの精肉売り場の社員だった人物である。こっちとしては初めてのアルバイトだったので、できるだけ近所で高給そうで尚且楽そうなところを探していた。ここのバイトは確か時給800円だった気がする。仙台市内のアルバイトにしてはまあまあ高給だった。当時は持ち合わせていた社交性と「社会の歯車になります!」という固い意思表示が功を奏したかは知らないが、トントン拍子で受かり、僕は無事精肉売り場で働くことになった。

精肉売り場は皆、能天気であり、マネージャーに至っては脳みそがないんじゃないかと思うくらい適当であった。そして3日目くらいでTさんに遭遇する。初めて見たとき僕は「こいつは2,3人殺ってる」と思った。一年中不機嫌なのではないかというくらい「近づいたらぶっ殺す」というオーラがあり、僕の1年先輩の遠藤さん(女性)を最低2回は泣かせたという情報が耳に入ってきたときは「この人とは極力関わらないようにしよう」と誓ったのだ。

しかしそんなわけにも行かず、案の定僕も怒られまくった。なんで怒られたか忘れたくらい怒られた。Tさんのヤバいところは限界まで来ると器物破損を引き起こすところだ。一回、プラスチックの仕切り板を叩きつけて粉砕するくらい切れられた。30過ぎた大人にこんなにぶち切れられたのは生まれて初めての経験だった。あとは排水口みたいな突起物を思いっきり蹴り上げてぶち壊すことも。「アルバイトってこんなに怖いもんなのかよ…」と仕切り板の破片を拾いながら震え上がった。

そんなもんで当時のバイト仲間の村上さんと僕の間では「Tさん早く遠くに異動になんないかな」という話題で持ちきりだった。「あんなサイコパス、早く追放した方がいいっすよ」「サイコパスっていうかただの犯罪者予備軍だろ、あれは」「あはは、ちげえねえ」「あははのは」。しかし異動になったのは僕らとは全く関係のない鮮魚のマネージャーだった。くそったれ。どうなってんだ、この会社は。事件は会議室じゃなくて現場で起きてんだ!また憂鬱な日々が始まる。

しかしTさんはそんなアナーキーな仕事ぶりでバイトが傷ついてるか心配していたようで、バイト終わりにたまーにラーメンやサイゼリアで飯を奢ってくれた。ほぼ無言。僕は「こんなもんで俺の傷が癒えると思ったか、タコ野郎」と思っていながらもしっかりと完食していた。土用の丑の日には何故かうなぎ弁当を奢ってくれた。しっかり家で完食して、次の日にバイトに行くと

「おい!」

「あ、おはようございます」

「おはようございます、じゃねえよ!」

「あっと、昨日はうなぎありがとうございました」

「美味しかった?」

違いない。この人は「怒り」という感情を自在にコントロールしてやがる!厄介な人間だぜ!と思った。「その男、凶暴につき」を見たときに、あの時の情景が一気にフラッシュバックした。ぶっちゃけ清弘よりもこの人の方が凶暴であり、そこら辺のツンツン革ジャン野郎よりパンクであり、そして精肉売り場の中で一番人間らしい人だったような気がする。Tさんがいつも吸ってたラークのタバコを吸ってるおっさんを見る度に、仕切り板をぶち壊すTさんが思い浮かぶ。恐怖以外の何者でもないが、あの人は別に悪い人ではなかった。ただちょっと暴力的にシャイなだけだ。人間、そんくらいの方が明確な意思表示にも繋がるし。まあもう一回一緒に働けって言われたら嫌だけど。どうでもいいけどラークって吸ってるとガンになる確率高いらしい。村上さんが言ってた。