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noise pop

生活

りんご狂騒曲 その1

2年くらい前にツイッターで「りんご音楽祭」というものがあることを知った。もう出演者は覚えてないけど、確か当時の邦楽フェスにしては珍しく「流行ってるから出す」みたいな感じのバンドは出ていなかったと思う。なんとなーく「りんご音楽祭いいな、サークルのみんなで行きたいな」というツイートをしたらすぐに公式アカウントからリツイートされて「是非ともお越し下さい!チケットまとめて買うととってもお得ですよー!」というリプライが来た。結局「長野は遠すぎる」という理由で、適当な飲み会に変更してその場は濁したのだけれども、「まあ社会人になって機会があれば行きたいかな」と思うようになった。

今年の4月。僕がバンドに戻って3回目の練習のあとに、何故かりんご音楽祭の出演権をかけたオーディションに参加することになっていることを知る。理由としては「本当に良かったら出れるから」だったと思う。そしてオーディション当日に、僕はシンセのフレーズを盛大に間違い、最早フェスに出られるとか出られないとかそういうことは全部頭から吹き飛び、単純に死にたくなっていた。終わったあとの打ち上げで主催者の古川さんから「良かったよ、ツアーしなよ、ツアーしなよ」と言われたが、単純に死にたくなっていた。

7月になり僕は相変わらず適当な日々を過ごすことに専念し、就活で本命の最終選考の面接で圧迫面接をかまされムカついて不採用通知の紙をライターで燃やしたら火事になりかけたり、バンドも何度か良いライブをしたりダメなライブをして、塩竈市のフェスのオーディションライブに参加して落っこちたりしていた。りんご音楽祭のことはすっかり忘れていた。そしてオーディション合格者が正式に発表される数日前にりんご音楽祭出場ということを知る。

そうしていざ発表となるが、個人的には全く実感もなかった。どこか遠くの、僕の知らない人たちのことのように思えてしまった。まず長野の場所を知らない。東京の横にあると思っていた。仙台からの距離、およそ420キロ。「歩いていったらどれくらいかかるんだろう…」と歩いていくわけもないのに恐怖に怯えたり、長旅に備えてスマートフォンのモバイルバッテリーを購入したりと「もっと他にやるべきことがあるだろうカス」ということばかりしていた。8月は持病の痔が最高に悪化したりと、とにかくストレスしか溜まらなかったがすぐに過ぎていった。レコーディングと並行してりんご音楽祭の準備に追われた。宿泊先・レンタカーの手配、ステージのセッティング、書類提出。「こ、これがフェスってやつか。細かいぜ!」と思いながらも、まるで文化祭の準備のようで楽しかった(一人でやっていたが)。祭りは準備してる時が一番楽しい。

そして全ての手配を終え、当日を向かえる。僕は朝から就活セミナーに参加していた。

「ミヤザキさんは最初『仕事で嘘がつけない』っておっしゃっていたけど、さっきのミヤザキさんの話だと、それは嘘とは言わないんじゃない?」

「いや、なんていうんですかね。僕は嘘をつくときにも相手をホッとさせる嘘をつきたいんです。例えばほら、『あなたの家が火事になってる』って言って実は火事になってなくて安心した、みたいな」

「ミヤザキさん、何言ってるの?」

セミナーを終えて山根宅へレコーディングしたCDを袋詰めに行く。家に着くとドラムのコブヤがまるで自分の家のように一人で寝ていたので起こしてCDのジャケットを袋に詰めていく。出発の数時間前にやる作業ではないのだけど、ここまで予定がずれ込んだことの要因の60%くらい僕にあったので、文句を言わずに黙々と作業をする。「昨日もほぼ徹夜で50枚のCDを焼いていたけど、長野までの車中で寝れればいいや。そうすれば全て解決だ。俺は悪くない。俺はこういう人間だ」とどこかの子作り野郎のような台詞を頭に浮かべつつ作業をした。長野までの運転はイトウタクロウさん。僕の人生初ライブ(ベースを弾いていた、というよりは叩いていた)を目撃したという稀少なお方である。一週間前にも米沢でのライブの運転をされた。運転スキルはピカイチなのだ。メンバー5人とタクロウさん。あとはお客さんであるホナミちゃんとカナコちゃんも乗せていくため、考えに考え抜いて僕は10人乗りのハイエースを予約した。

「か、完璧すぎる…」

自分の完璧な計画性に酔いしれた。これは今までの汚名を一気に挽回できるんじゃなかろうか。みんな一生頭が上がらなくて「いやあ、やるときはやると思ってましたよ。あっ、火、お着けしますよ」とか言ってくんじゃねえのか。しかしレンタカーの返却時間をりんご音楽祭の翌朝9時にしていて、「それだと早すぎるんじゃないか」とコブヤに言われたので、レンタカー屋に電話をしてもう少し遅くの時間にすることにした。

「はい、○○レンタカーです」

「すいません。今日の22時からレンタカー予約しているミヤザキという者ですけども」

「えっと…、はい!6人乗りハイエースをご予約されたミヤザキ様ですね」

何かが崩れ落ちた。