noise pop

生活

りんご狂騒曲 その3

9/13 AM6:00 車からのそのそと起きてきたクルー達の顔にはさすがに疲労の色が隠せない。僕はというと一睡も出来ずに目玉はギンギンに血走っていた。それはまるで遠足前日に「あした天気になあれ♪」とか言いながらてるてる坊主を吊るす小学生のようだ。でもまあ昔から遠足の前の日は爆睡してたけど。昔から無邪気さという概念が抜け落ちている。

高速に飛び乗り長野への突入を図る。ここら辺からながーいトンネルが頻繁に出現するため、運転手には細心の注意が必要になってくる。この最高の旅の原因(元凶)を作り出した僕はというと、助手席にふんぞり返り、どこにあるかよく分からないアルプス公園に思いを馳せていた。どこかにあるながーいトンネルの中でちょうど群馬と長野の県境の表示があり、僕らは無事に長野県に入った。軽自動車で。

「長野に入った!」

「ながのながのながの!」

「あひゃひゃひゃ、ながのながのながの!」

「わーい、ながのながのながの!」

長野に入っただけでこんなに狂喜する人間たちがいるなんて、長野県も苦笑いをしているに違いない。ともあれマジで軽自動車で長野県まで突入してしまったことは事実なのだ。これくらい喜んでもいいだろ!と得意技の「開き直り」を炸裂させていると、運転席の田中秀憲から「てめえのせいでこんな目にあってんだよ」という視線を感じたが気づかないふりをした。

「なんかさ、昨日全然眠れなかったから今になって眠くなってきたわ…」

「寝てないお前が悪いんだよ」

生理現象を理由とした必死の抵抗虚しく、松本市までノンストップで僕が運転することになった。ここら辺まで来ると「松本まで70キロ」という表示にも「70キロか、近いな」と思うまで麻痺してきた。ずっと一人で運転しているタクロウさんは「沖縄まで2000キロか、近いな」とか思っているのだろうか。長野市から松本市まで70キロあると書いたが、冷静に考えるとかなり距離がある。長野県の土地勘なんてあるわけがないのに「同じ長野なら近いだろ」という理由で宿泊先のホテルを長野市にとっていたことを思い出した。要するに1日目が終わったら70キロかけて長野市へ。朝になりまたアルプス公園。2日目が終わったら長野市を経由して帰宅。長野県だけでトータル280キロの度になるのであった。まあ松本市内のホテルは全部埋まっていてしょうがなかったのだけど。「280キロか、近いな」と思うことにした。

松本までのあまりにも単調な道とトンネル。生まれて初めて運転中に睡魔に襲われた。暖かい日差しが睡魔をどんどん「おーい、こっちだよー」と呼び寄せる。危うくその誘いにのりかけることが少なくとも10回。瞳孔を見開き「フー、フー」と妊婦のような呼吸法で乗り切ることも限界である。「トホホ、こんなことならあそこでちゃんと寝ときゃよかったよ」という心の叫びがちびまる子ちゃんの声で再生されるくらいにやばい。

「ホナミちゃん、なんか面白い話してくれ」

喋るマシーンと化しているホナミちゃんに助けを求めつつ、なんとか会話を続けてもらいながら松本までぶっ飛ばす。ここまで来て事故ったら笑い者だ。コブヤとかめっちゃ笑いそうだ。そのままなんだかよく分からないものと格闘しながら無事に松本インターに到着し高速を降りる。

下道を進むこと15分、遂にアルプス公園の駐車場までたどり着いた。今日は出演者じゃないので駐車場に車を置いて、一般客に混じってライブを見ることになっている。車から降りると9月にしては眩しいくらいの日差しが照りつける。「ここって本当に長野ですか?」と駐車場の警備のおっさんに聞こうと思ったけど馬鹿だと思われるから止めておいた。

ここから臨時バス(ハイエース)を使って会場まで行く。全員が明日の出演者とは思えないようなオーラの無さをまといながら乗り込む。

「あー、本当だったらこういう車で長野まで行ってたんだろうな」

誰かが言った。ああ、おそらくこれは仙台に戻っても言われ続ける。それどころかデング熱のように日本中に拡散され続け、数年後、街を歩いていたら知らないどこかのクソガキに「あっ、ハイエースレンタルし損ねた人だ」と言われるんだろうな。そういう時はどうすればいいのだろう。殴ればいいのか。

いつも以上の被害妄想に苦しんでいると、いつまでたってもなおちゃんとタクロウさんが車に乗ってこないことに気づく。駐車場のおっさんは一刻も早くこの車を送り出したいらしく「もう出すよーもう出すよー」と連呼することに終始していた。何か嫌な予感を抱きつつ、半ば強引に出発させられた二人を欠いたハイエースは順調にアルプス公園まで向かっていた。途中で運転手のおっさんが道を間違えたこと以外は。

なおちゃんとタクロウさんがグループラインに投稿してきた。

「なおちゃんサービスエリアに財布を忘れてたの発覚しました!」

「すいません!」