noise pop

生活

りんご狂騒曲 その4

「…」

「…」

「…」

絶望が車内を支配した。あの時の空気を真空パックに詰めて「絶望」という名前で売買したらどんな人間が買いに来るだろうか。「この運転手のおっさんがヅラであるか否か」ということで一人で(心の中で)盛り上がっていた数分前に戻りたい。時は金なり。時間は有限。お金で買えない価値がある。

そんな僕らを乗せた絶望カーは無事にアルプス公園まで到着した。しかし二人を残して会場入り出来るはずもないので入口で待機することになった。手も足も出ないとはまさにこのこと。

数分後。あっさりと「見つかった」という連絡が来た。僕がギョーザを二人前食べて睡魔に襲われたというSAの机の上に綺麗に置き忘れていたという。しかもお金は一銭も無くなっていないのだ。今まで栃木という土地に対して何の感情も持っていなかったが、ここで初めて全員の頭に「栃木県民=聖人」という固定概念が根付いた。財布を取りに行くため、帰りにもう一回寄るので、その時には全員で真夜中のSAの駐車場で「ありがとうございます!」と土下座しなければいけないのかな、と思う。

「よかったーよかったー」と言いながらなおちゃんとタクロウさんがやって来たので無事にりんご音楽祭の会場である松本アルプス公園に入った。その4にしてやっと…。

とりあえず全員でメインステージであるりんごステージに赴く。ステージでは「夕暮れの動物園」というバンドが演奏していた。これがめちゃくちゃ良かった。タブ・レゲエの中にゆる〜いローファイ感があって、そこがツボであった。コブヤがCDを買っていて、帰りの車の中で聴いたら軽自動車のエンジン音にかき消されて、ボリュームを上げざるを得なくなったが、ますます良かった。

そしてアナログフィッシュを見る。しかし僕は運転でピンと張り詰めていた緊張の糸が完全に切れてしまったので、(明確には仕切られていなかったが)前方のスタンディングソーンっぽいところで膝を抱えて寝ていた。周りの人からしたら路傍の石くらいにしか思われていなかったんじゃないか。秀憲くんが「最っ高でしたよ!」と言っていた。

緊張の糸が切れていたのでビールを買う。

「僕、明日出るんですよ!」

「そうですか!」

露店の兄ちゃんに普段絶対にやらない「俺、このあと出るんですよアピール」を炸裂させるくらい疲れきっていた。兄ちゃんの顔からは笑顔と同時に「だからどうした!」という気持ちがビンビンに伝わってきた。

りんごステージの横にあるブースで水曜日のカンパネラを見る。かなり昔、後輩の佐々木君がハマっていると言っていた。彼は耳が早いからもう聴いていないという話も聞いたけど。ゆるーい空気を切り裂くようなアグレッシブなステージ。登場した時に露店のノボリを持ってきて客席から入ってきたけど、あれは大森靖子のパロディーだったのかと思う。

ここまで来るとメンバーも散り散りになってて、気がつけば一緒に行動するような人間もいなかったので適当にふらつくことにする。「俺はなぜ長野に来ているんだろう」という考えなくていいことまで考えていながら歩いていると、前の方から出演者とは思えないオーラの無さの秀憲君とカナコちゃんが歩いてきた。

僕「これから俺、ヒップホップとか見てくるわ」

秀「さすが『DJ生活』ですね」

DJ生活ってのは僕のツイッターのアカウント名なのだが、一体どういう経緯があってこの名前にしたのかがどうも思い出せない。確か「みやざき」→「みやざきコールフィールド」という変遷までは覚えている。一応補足するとコールフィールドというのは、青春小説の大傑作「ライ麦畑でつかまえて」の主人公・ホールデン・コールフィールドからとった。ある日突然「ライ麦調で日記を書いてみよう」と思い立ち、当時やってたmixiの日記をライ麦の文体(「僕は○○をしたのさ、○○だったけどね」といった感じ)にしたけど、誰からも反応がなかったので止めたという死ぬほどどうでもいいエピソードが込められている。

そんな死ぬほどどうでもいいことを思いながら、おやきステージに移動してDJ EYƎを見に行く。説明しなくてもいいけど、あの伝説の迷惑バンド・「ハナタラシ」で数々の破壊行為を働きながらも、現在では「ボアダムス」とかで世界を代表するミュージシャンになってる人である。最初はなんとなく見に行って途中でmooolsに移動しようと思っていたけど、これがめちゃくちゃ良かったのだ。民族音楽を取り入れて、聴覚だけじゃなく視覚や脳みそも一気に支配されてる感が凄まじく、「こ、これがトランス…」と興奮しすぎて結局最後まで居てしまった。他のメンバーはmoools見に行ってたらしく「すごく良かった」「今日一番良かった」「あれ見ない奴はバカ」ということを次々に口にするので少しだけ後悔した。

それからまた適当に過ごそうと思っていたらBlack LipsのBad Kidsが流れてきたので、何だかよく分からないけど走ってわさびステージに行ったら、わたなべともゆきBANDというバンドのSEだった。これも僕のツボを刺激する感じのバンドで、海外のインディーロックと日本語を上手く調和してた。そのあとはトクマルシューゴを遠くの方からちらっと見たり、カップルとカップルの間の芝生で昼寝して少しセンチメンタルな気持ちになったりしながら、日が暮れてからぐっとクルーというバンドを見た。RCサクセションやたまにローファイをプラスしたような適当に見えて熱いステージにグッと来た。

まだライブは残っていたけど、もはや体力の限界だったので少し早く帰ることにした。運転手として仙台・長野間を一人で爆走したタクロウさんは一足早く車の中で爆睡していたらしい。タクロウさんは俺の5000倍疲れている。

松本から長野へ移動する。長野市内までは順調だったが、長野市へ入ってホテルまであと5分までの距離へ来ると突然道に迷う。僕が助手席でナビをしていたのだが(言い忘れたけどこっちの車にはカーナビがついていない)、同じような道を行ったり来たり、ぐるぐると袋小路へ迷い込んだような感覚を覚えた。運転の秀憲君もこっちが「あと5分」だと言ってるのに10分も15分も同じような道をウロウロしてると、多分イライラしてくるのだろう。言葉が少なくなってきた。

「次の次、左ね。こっちこっち」

「そっち右ですよ」

「…」

なんとかホテルへ。想像以上に(見かけは)良いホテルだったので「これが俺の唯一の功績だ」と思いながらロビーで待つメンバーに「どや?」といった顔を見せつけたが、誰も見てなかったので何も言われなかった。フロントで手続きを済ませてあとは寝るだけになったあと。

フロント「すいません。駐車券のご提示お願いします」

僕「駐車券…?秀憲くん、駐車券どこ?」

秀「…車の中です」

僕「…」

秀「とってこい!」