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noise pop

生活

りんご狂騒曲 その5

なんで僕が松本市から70キロもバカみたいに離れたホテルを予約したかというと、単純に松本市内のホテルというホテルが全て満室だったということが挙げられるが(第一、3連休中に7人も余裕で泊まれるホテルがあったら教えていただきたい)、とりあえず格安だったということ(一人一泊4000円弱)と、大浴場があるというところに惹かれたからだった。一応客室にもお風呂は付いているが。年がら年中、ユニットバスという80年代トレンディードラマみたいな浴槽で全く疲れが取れないのに取れたふりをしている僕にとって、大浴場というのは「でかい」、それだけで十分魅力的な存在だったのだ。

しかしこのホテルの大浴場というのは男子専用なのである。ここら辺は勝手に目を瞑った。「まあ男だし、俺…」と言葉にすれば最低以外の何者でもないけど。なおちゃんとホナミちゃんには悪いけど、了承してもらった。コブヤとタクロウさんは「大浴場はちょっと…」と難色を示したので、一人でスタコラサッサと入りに行った。エレベーターで秀憲くんに会った。手にはシャンプーとタオル。「こいつもやる気まんまんだな」と僕は勝手に思った。

肝心の大浴場だったが。大浴場だった。フツーの、ごく一般的の、100人に「これはなんでしょうか?」と写真を見せて90人くらいが「うーん、大浴場…?」というくらいの大浴場であった。

「まあ大浴場ですよね、本当に。ただでかいだけみたいな…」

そう言いながら秀憲くんはそそくさと大浴場の中に消えていった。僕は備え付けの体重計のスイッチの場所が分からず、全裸のまま四苦八苦するという、狂気のような行動に終始していた。結局分からなくて自分の体重が今何キロなのか不明なまま湯船に浸かることにした。モヤモヤする。「ミヤザキ君、良いよね、スタイルは」という、俺を馬鹿にしているのかという発言を浴びせられることが非常に多いので、自分の体重くらいは知っておきたい年頃なのだ。

フツーの大浴場には、フツーにシャンプーとリンスとボディーソープがあって、フツーのおっさんが入れ替わり湯船に浸かってきた。フツーだ、ていうかマトモだ。「マトモって何なのさ!」と、昔見た「さらば青春の光」に出てきた主人公・ジミーの台詞を思い出す。青春という春の季節から抜け出すことを拒否していたジミーは、ラストシーンで大人になることを決める。というか大人にならざるを得ないような立場になる。あのままバイクと一緒に死ねなかったジミー。じゃあ俺はなんなのだ。長野までロックフェスというもんに出るために軽自動車で400キロもすっ飛ばしてきた俺は…。

頭がのぼせてきたので、何故かサウナに入る。思考回路が完全にイカレている。秀憲くんも入ってきたけど、あまりの暑さに逃げるように二人で出て行った。

マッサージチェアが2台備え付けてあった。片方のチェアに座り、今日一日の疲れを取る。ブーブーと音を立てて僕の背中、腰、さらにはふくらはぎを入念に揉みほぐす。テレビでは水球ヤンキースがやっていた。僕が3話で切ったドラマだった。そろそろ物語も佳境に入るところだったが、テレビに映る「青春」というやつがあまりにも眩しかったので、見えないふりをした。若さというのはそれだけで武器になる。もう片方のチェアに座っていた秀憲くんとチェアを入れ替えた。

「それ、ヤバイですよ。カス過ぎて」

「うお、なんだこれ。弱っ、全然効かねえ」

「すごいですよね」

「なんかあれだ、死にかけのジジイにマッサージしてもらってるみたいだ…」

死にかけのマッサージチェアから脱出して、一足先に部屋に戻ると、おそらく今日一番疲れているであろうタクロウさんがホナミちゃんからマッサージされてて、泣いていた。あまりにも身体が凝りすぎているらしい。ベッドに入っても「揉み返し」という現象に泣かされていた。本当に痛そうだった。

そのあともりんご音楽祭とのやり取り(僕が返信するのを忘れていたメールの処理など)を行い、布団に入った。ちゃんと寝るのは二日ぶりだった。死んだように眠る。

朝になり、起きてボーッとしていると部屋の呼び鈴が鳴った。出てみると巨体のコブヤ。

「うおっ」

「朝飯だよ」

フツーじゃない。