noise pop

生活

りんご狂騒曲 その6

普段は待ち合わせの時間に最大30分は平気で遅れてくる人間の集まりなのに、なんでこういうときは早起きなのか理解に苦しむ。僕は普段は待ち合わせの時間に10分は余裕を持って来ている人間なので、別に時間にルーズというわけではない。ああそうか、彼らは小学生並みの感性を持ち合わせているので、これを修学旅行か何かだと思っているんだな、そうなんだな、と思うことにした。小学生の朝は早い。

朝飯はバイキングだった。出張中のサラリーマンに混じりながら、後のことなど考えずにどんどん飯を盛っていく僕ら。僕がこのホテルを選んだ理由の一つにこの朝食バイキングというものがあって、最大のセールスポイントであった大浴場は期待外れだったので、なんとしてもここで挽回したい気持ちがあったのだけど、飯に対しても不満の声がぶーぶーと漏れ出す。

「これいらないからやるよ」

と山根君から飯を貰う。俺を乞食か何かと勘違いしているのではないか。よく分からないひじきみたいなものだけ評判が良かった。こいつらは舌が狂ってると思う。

不満しか噴出しない朝飯が終わり、部屋に戻り出発の準備をする。集合は9時ジャスト。前述の通り時間に几帳面な人間なので、10分前にロビーに着いて東スポを読んでいた。相変わらず飛ばし記事が多い新聞だなあと思っていると、秀ちゃんからラインが来た。

「すいません。プリキュア全部見ちゃったので遅れます」

安定の10分遅れで出発。

前も書いたけど、長野市から松本市までは車で1時間くらいかかる。とりあえず睡魔に襲われる長いトンネルを抜け、松本市に突入する。あーだこーだ言っていても遂にこの日が来てしまった。俺、一体何やってんのかな。家族にばれたらぶっ殺されるんじゃないかな。なんで長野まで来ちゃったのかな。色々な思いが交錯する中、2台の軽自動車が松本アルプス公園に到着した。

下にある駐車場に車を止め、片方の車に機材とメンバーを乗せ、あらためて頂上にある出演者用の駐車場を目指す。軽自動車で山道を登るのはかなりキツイ。アクセルべた踏みでもスピードが出ない。しかもこちとら実質6人乗りくらいの重量なので致命的である。運転は僕がしていたのだけど、途中で「アルプス公園は右だよ」という立て看板を左に曲がろうとして全員から罵声を浴びる。言い忘れたけど僕は右と左の違いがパッと出てこない。死んだ方が良いのかと思う。出演者用の駐車場に無事に到着すると、係員がゴミを見るような目でよそよそと近づいてきたので「今日出演するプリマドンナっす」と伝える。県外から来たバンドの機材車が軽自動車というのはもはや新手のギャグである。とりあえず信じてもらえたので駐車して荷物を下ろす。コブヤが「おとぎ話が見たい。おとぎ話が見たい」とうわ言のように呟いていたのだけど、下に残してきた機材を迎えにまた車で下に戻る。途中で道を歩いていたおばあさんを轢き殺しそうになったこと以外は順調だった。

なんとか会場入りして全員でおとぎ話を見る。大学時代に「SALE!」「理由なき反抗」を聴きこんでいたのだけど最近は全く聴いていなかった。なんというか青春の1ページに残してきた感じだったのだ。だけど初期の曲を多めにやってくれていたので嬉しかった。新曲がわけが分からなくて最高だった。途中で「ああ、物販持って来ないと…」と思い、一人で車まで戻って色々やっていたら終わっていた。後で聴いたら最後に「KIDS」という僕が大好きな曲をやっていたと知った。何とも言えない気持ちになる。

あとは各々好きなバンドを見たりして時間を過ごしていた。いきなり「グル―ヴ感を取り戻さないと…」と、やけのはらを見に行く。どうでもいいけど僕にグル―ヴ感という感性は存在していない。

やけのはらのライブは予定調和の塊みたいなところがあると思うのだけど、それが最高に好きになってしまう。キミドリのカバー「自己嫌悪」のラインが胸に来る。

 朝起きてテレビをつけて、煙草を取り出し火をつけて
外見て暗くなってたりすると、妙な気分な今日この頃
やりたいことがあればやればいいし、そうでなければやらなくていいのに
なにかにつけて理由を考えている、今日この頃

 グル―ヴ感が芽生えたような気がしたので準備を始める。駐車場に戻って機材を会場が用意した車に詰め込みステージに向かう。僕、コブヤ、秀ちゃんの3人も同乗して会場をゆっくりと駆け抜ける。途中で山根君がいたけど無視した。よくフェスとかで出演者を乗せた黒塗りのワゴン車が会場を走っているけど、あれを想像してもらえれば有難い。お客さんから「誰が乗っているんだろう?」という視線が突き刺さって痛い。途中で僕らを見たお客さんから「知らねえ!」という声が聞こえたけど、俺もお前のこと知らねえ。

ステージ脇のテントで準備を進めていても「俺は何をやっているんだ…」という思いしか湧いて来ず、今後の人生を真剣に考えていた。途中でコブヤが入ってきた。

「ミヤザキ、ここはB2(練習してるスタジオ)だ。B2だと思え」

「ああ、ここはB2、ここはB2…」

暗示にかけられた。素直なことに定評がある僕はすぐに騙される。ついでに言うと年がら年中騙されている。正直者が馬鹿を見る世の中である。

前のバンドが終わりセッティングを始める。やぐらのようなステージに立つと、まばらなお客さん、遠くから聞こえる知らないバンドの演奏、よく分からないがそれなりに有名そうな山、全てが見える。微妙に夕日が差したステージ。本当に異次元にいるような錯覚に陥る。バンド始めたころは見えなかった光景だ。見ようとも思ってなかったけど。ああ、なんだかよく分かんねえけどここまで来たらやるしかないんだなあ、と思いながら電飾を付けていた。全然光らなくて焦る。

一回ステージ裏に戻ってSEが鳴るのを待つ。今日のSEはPavementの「Date With Ikea」だ。名盤「Brighten The Corners」の4曲目。僕が選んだ曲である。後期Pavementの中でも特に好きな曲で色々と思い入れもある。じっと待つ。しかし待ってもなかなかかからない。なんだか嫌な予感がプンプンと漂う中、聞き覚えのある曲が流れだした。


Pavement - "Stereo" - YouTube

僕「あれ、これ1曲目…」

コブヤ「このCDであってんの?」

僕「合ってるけどこれ1曲目…、4曲目って言ったのに…」

コブヤ「もうなんでもいいから行こうよ」

SEを間違えられた。なんだか釈然としない気持ちでステージに立つ。