noise pop

生活

りんご狂騒曲 その7

話は前後するが、僕らはりんご音楽祭前にレコーディングをした。他のバンドもそうかもしれないけど、バンマスみたいな奴がいるとレコーディングの日程というものは、あってないようなものになる。僕らも3日の予定がずるずると延びていき、金銭面に不安を感じつつも何とか終了した。ちなみに僕がレコーディングにちゃんと参加したのは実質3時間くらいだった。それまではずっと待機。暇すぎて死んでいたり、ジャンプを読んでいたら、黒子のバスケが最終回を迎えていた。「形あるもの、いつか終わるよなあ…」と呟いてみたが、誰も聞いていなかった。

その出来たての音源は、仙台ではなく何故か長野県から販売することになり、僕らは急ピッチでミックス作業やジャケットの作成に追われた。いつも思うのが僕らは底抜けのアホであり、要領が悪く、それでいて何故か自らを追い込みまくる。でも今思うと、縁もゆかりもない土地だからこそ、新しく出来た音源をいち早く届けたいという気持ちがあったのかもしれない。なんの予備知識もないバンドを聴いてみたら良かった、音源を買ってみよう。そういう気持ちが薄くなっていったのは最近のことではないように思う。

 

SEを間違えられた僕らは、完全アウェーの空間に放り出された。ゾクゾクした。僕らを知ってる人はほぼいない。こういう空間でやるというのは最近本当にない。プリマドンナに入る前、僕は「以前一緒にバンドをやってた友達がやってるバンド」として客として見に行っていた。その時も遠巻きでお客さんが「えーなにこれ」みたいな感じで見てる中、下手側の前方で見ていた。「こいつらは絶対にいいんだよ。お前らには分からないだろうけど、俺だけが知ってるんだよ」という大学4年生にしては異常にこじらせた感性を持っていたのだった。その「俺だけが良さを知ってる」という感性は薄れはしたが未だに完全には消えていない。そういうものがステージに上がった瞬間に、蘇った。

前方ではガラの悪い人がビール飲みながら「さて、見てやろう」といった感じでユラユラしていた。後ろの方では遠巻きに見ているお客さんが大勢いた。あの頃とおんなじだ。何も変わっていない。変わったとすれば、何故か僕がバンドに入ってしまったことくらいであった。傍観者から当事者に。

ringofes.info

こんなこと言うのはどうかと思うけど、ライブの事はあまり覚えていない。あっという間だった。写真を見返して思うのは、コブヤのTシャツがダサいことと、苦労して付けた電飾が全く意味がなかったこと。あとなんでナオちゃんは口を開けているときしか撮られていないのだろうということ。演奏に関しては、ない。MCで僕は「今日から音源売るんですけど、仙台じゃなくて何故か長野県から売るんですよ。分かりますか!?この重要性!」などというクスリでもやってるのかというくらいの躁鬱状態であった。

「絶対に良いんだからさ、聴けよ」

そんなことを去年の3月のライブにも思っていた気がする。普段の僕はどんなに良いと思っても「まあ人には好みがあるからね」と、分別がついた大人っぽいことを口に出すように心がけていて、本当に思っていることは簡単には言わないように、固く固く鍵をかけているのだけど、ふとした瞬間、それこそ本当に素晴らしいもの、心の琴線にふれたものを体感したときにその感情が流れ出る。止められない。

ライブが終わった後、僕はいそいそと後片づけをして、物販に向かった。始まる前に金庫の鍵が閉まってしまい、「開かねえ、開かねえよ、これ!」と一人で発狂していたのだけど無事に開いたようだった。タクロウさんが一人で物販を切り盛りしていた。物販には20人くらい並んでいたようだった。知らない人しかいなかった。その事実が目の前にあるだけで嬉しかった。結成当初、僕らは自らで録音した音源(2曲入り)を200円という異常に強気な値段で販売したのだけど、知り合いしか買ってくれなかった。

感傷に浸っていると秀ちゃんがやって来て「ミヤザキさん、物販僕やりますから電飾の片づけしてくださいよ」と言われたから戻った。何の意味もなかった電飾を片づけていく。地味に重い代物なので「なんで出演時間の計算までしなかったんだろう…」とむなしい気持ちになる。やはり僕らは底抜けのアホだった。

物販に戻って来ると誰もいなかった。他のメンバー全員は、もう少しで終わるであろうこの非日常を終わらせたくないような気持ち、なのかは知らないけどみんな他のライブを見に行ってしまった。底抜けのアホどころか無責任の塊だった。死んだ方が良いんじゃないかと思った。誰もいない物販にぽつんと一人で座っていると、主催者の一人で僕らのライブを最後まで見ていたっぽいアイさんがやってきた。

「お疲れ様。すごく良かったよ。なんか必死さが伝わって来てさ」

「え、必死でしたか?」

「うん、MCのとことか特に。なんか笑ったけど泣きそうになっちゃった」

ふとさっきまで僕らが立っていたステージを横目で見る。「絶対に良いんだから買って帰れよ」と、酔ってもいないのに呂律が回らないアホのような喋り方で捲し立てる自分の姿が見えた。恥ずかしくて死にたくなった。