noise pop

生活

りんご狂騒曲 その8

夕暮れだった。何かが終わろうとしているなあ、と思ったけど、なにが終わろうとしてるのかはよく分からなかった。24歳で夏だった。今と言う瞬間はすぐに過去になる。当たり前のことを考え過ぎると頭が痛くなる。

薄暗くなったアルプス公園。出店でチキンを買ってクリトリック・リスを見ながら笑っていたら、コブヤがのそのそやって来た。

「それ、なに?」

「なにって…、お肉だけど」

「どこで売ってんの?」

「あっち」

「ふーん」

と、どこかに行ってしまった。自分の腹の肉でも食べればいいのに…、と思った。

ふらふらと何を見るわけでもなく、ただひたすら歩く。僕の手首に着いた出演者用のリストバンドを見て、すれ違うスタッフの人が「お疲れ様です」と声をかけてくれる。良い気分になる。また30m先からでも分かる巨体を揺らしながらコブヤが向こうからやって来てた。手にはチキンが握られていた。

どのステージもトリを迎える時間帯。他のメンバーはりんごステージの大トリ・ZAZEN BOYSを見に行っていたようだが、僕は一人で今回出たわさびステージまでヤングを見に行った。そういえばタイムテーブルが発表されたとき「これは絶対に見よう」と思って行ったのは、僕の中ではヤングと山塚アイだけだった。

完全に暗闇になった会場内。ヤングのライブを見た。暗闇の中でぽつんと灯台のように一か所だけ光を放つステージ。眩く逆光。隣にいた女の子の顔はうかがい知ることが出来なかったけど、彼女が踏むステップで、とても楽しそうにしているのが分かった。アンコールで、僕が好きな「透明」という曲をやって、終わった。全てのライブが、りんご音楽祭が、終わった。


ヤング(a.k.a 乍東十四雄)「透明」PV - YouTube

人がぞろぞろと向こう側から歩いて来て、皆が帰路に着き始めるのが分かった。「危ないっ!」とコブヤに崖から30回くらい突き落とされそうになりながら車に戻る。広大な駐車場では、何かを終わらせたくないように、最後の悪あがきみたいな虫の鳴き声が合唱していた。真っ暗で何も見えなかった。横の国道を車が通り抜ける度に、ライトが一筋の光になって消えていった。びっくりするくらい静かだった。世界中に僕らしかいないような気分になる。

「じゃ、帰ろうか」

誰かが言った。軽自動車のエンジンをかけると頼りないエンジン音が鳴り、僕は仙台に帰ることを再確認する。

車がほとんどいない高速道路を走る、ただひたすら走る。本当に感覚がマヒしてきた。夜明けには仙台に着いてしまうような気がする。僕は運転したり助手席に座って話し相手になったりで寝る暇がほとんどない。

トイレ休憩で立ち寄ったSAでタバコを吸っていると、カナコちゃん、タクロウさん、ナオちゃんが僕のブログの話をしていた。

「初めてミヤザキくんに会う前にブログ読んでて『あー、この人頭の回転速そう!』って思ってたんだよ」

ナオちゃんが笑いながら話してきて、なんだか照れてしまう。高校二年から、唯一と言っていいくらい毎日続けていることで、たまに「ブログ読んでます」と言われると、バンドを褒められるよりも嬉しくなってしまう。なんでバンドやってるのか、疑問になってしまうが。

「実際会ってみてどうだった?」

「ただのボンクラだったよ」

みんなの笑い声が、夜の空に落ちていった。