読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

noise pop

生活

今日から俺は

「カナザワさ~ん」

アパートに入居して4日目くらいに廊下を歩いてたら、大家のおばちゃんに、俺を難聴だと思ってるのかというくらい馬鹿でかい声で呼びとめられた。「ザ」しか合ってない。初めて仙台に来たのは7年前の4/3だったらしい。部屋を掃除してたら出てきた入居の手続きの用紙にそう書いてあった。

4月3日。初めて一人で知らない土地の夜を過ごした。カーテンもない部屋から外を見ていたら、アパート横の橋を走る車のライトが僕を照らして、すぐに消えていった。街灯だけがずっと動かずそこにいた。朝になってコンビニに弁当を買いに行った。慣れない土地は歩きづらい。出社する人の脇をふらふらと潜り抜け、節約なんて頭にない僕は適当な弁当を買って、帰って一人で食べた。CDを聴いた。何を聴いたか覚えていない。

学校に通い始めた。遠かった。自転車で20分かかった。学科の友達は、良い人だったけど、つまらなかった。バイトを始めた。上司が狂人だった。ムカついて廃棄する高級肉を毎晩持って帰って、一人で食べた。バイトの人達と初めて「飲み」というものに行って、僕は何故か発泡酒ばかり飲んだ。家に帰って、吐いた。

サークルの長になった。先輩が非協力的で、後輩もほぼいなかったので発狂した。「サークル 潰し方」とグーグルで検索するくらいおかしくなっていた。Pavementの1stを聴いて泣いた。バンドを組んだ。みんな下手くそだった。ニコニコ動画を毎晩見ていた。

地震が起こった。2日くらい帰れなかった。帰ってきたら入口の割れたガラス戸を、大家のおばちゃんがミイラのような完全防護で掃除していて「あら~無事だったのね」と言われた。部屋に入ったらCDが全部床にぶちまけられていた。fountains of wayneのCD全部にヒビが入っていた。地元の友達から電話が来た。ほぼ全員、俺が死んだと思っていたらしい。当時やっていたブログのコメント欄に「生きてください」と書き込みされた。ネットの知り合いの方が心配するって…と思った。

就活をした。やる気がなかった。説明会があってスーツで部屋を出ようとしたら、扉のまん前の廊下で、地震のために割れた配管の工事をしていた。なぜか一気にやる気がなくなって、そのまま部屋を出ずに寝た。好きな子にメールしようと思って、30分くらい悩んで、吐いた。ふられたまま学校を卒業した

バンドに入った。スタジオで喧嘩した。知り合いが増えた。毎週家に来る人がいて、その都度部屋が盛大に荒らされていった。壊滅的なまでの汚さだった。こんなはずじゃなかった、本当だったら週末には彼女と仙台で待ち合わせしてご飯食べて31アイスクリーム食べて、タワレコ行って嫌いなバンドの悪口を言いまくって、そのまま僕の家に彼女も泊りにやって来て、ツタヤで借りたB級映画を見て…って感じだった。それなのにこの部屋でビールの空き缶にまみれて殺人的ないびきをかいて寝ているこの男はなんなんだろう…と思った。

就職した。人間関係がクソ過ぎた。ストレスで白髪が爆発的に増えた。駅から降りたらベンチのところに野良猫がいて「今からコンビニ行って餌を買うまでに、あの猫がそのまま寝ていたら仕事を続けよう」と思った。鯖の缶詰を買って戻ってきたら、猫はいなくなっていた。仕事を辞めた。吐いた。求職活動をした。片手間でレコード屋の店員になった。頭がおかしい客が多くて「俺も客観的に見ればああいうふうなのかな」と思った。バイト中、頭がおかしい女にナンパされた。「僕のどこが良いと思ったんですか?」「うーん、雰囲気かな?」逃げた。地の果てまで逃げたかった。無理だったから社員さんに泣いてお願いして無理やり休憩に行った。「なんで俺は頭がおかしい奴らに好かれるんだ…」と絶望した。

転職した。転職できなかったらフィリピンに行ってマンゴー農家を経営する羽目になっていた。新しい職場は意外と人間関係が良好、だと思う。だけど通勤に片道1時間もかかって、いつも乗る車両に小学1年生4人とその保護者4人、計8人も乗って来て段々嫌になってきたので、引っ越すことにした。不動産屋のオカモト君はいまいち頼りない。出社カレンダーをもらって見たら、月に5回しか休みがなくて、毎日遅くまで残業らしい。不動産関係は勤めないようにしよう。マンゴー農家の方が遥かにマシなような気がした。

というわけで今日引っ越しだけど、不安しかない…。敷金は戻って来ない上に、おそらくクリーニング費もがっぽり取られるだろう。